たけちゃんForever(7)

5月。休日の朝。

野球部の試合の全校応援のために、制服を着て家を出ようとした時だ。
※野球部は弱かったらしいのだが、この年は珍しく勝ち進んで、そこら辺のグランドじゃなく、大きな球場で試合があったのだ。
玄関のドアを開けて、外に1歩踏み出そうとしたら、足元にセキセイインコが!
ピヨと鳴いて、自分を見上げている。
「おかあさん!鳥!セキセイインコがいるよーーっ!」
どこから飛んできたのだろう?
指を出したら、おずおずととまった。

3代目たけちゃん

野球の応援から帰ってくると、ガレージの奥の方にしまい込まれていた古い鳥籠が、再び我が家のリビングに置かれていた。明るい黄緑色のセキセイインコだったので、もちろん、母が「たけちゃん」と名付けてしまったよ。
3代目たけちゃんも、2代目たけちゃんと同様、いや、それ以上に人なつっこい鳥で、すぐに家族になった。

やがて夏が来た。暑い日だった。たけちゃんは、いつもはモフモフしている身体をキュッと細くして、翼をやや持ち上げ気味に(外国人が、Oh!って言いながら肩をすくめるような感じで)広げて、人間でいうところのわき腹の風通しを良くしているようだ。と、見ていると、いきなり、籠の中に設置されている水の入れ物に頭から突っ込んでしまった。で、小さい入れ物になんとか身体を入れようと、狂ったようにジタバタしている。

たけちゃんのお気に入り

そんなに暑いのか。そーか、かわいそうに。よしよし。
洗面器に浅く水を張り、「たけー。プールだよ、ほら!気持ちいいよ。」と呼ぶ。
指にとまったたけちゃんを洗面器の中に降ろそうとすると、怖がってバタバタして、洗面器の縁に飛び移ってしまう。「大丈夫だよ。ホラ。」と声をかけながら、水をチャパチャパさせる。たけちゃんは、入りたそうに、思いっきり首を伸ばして水面をのぞき込むが、やっぱりなんかコワイーっ、あ、バランスが崩れる!オットット!慌てて翼をバタつかせながら首を引っ込める。

「ほらほら〜気持ちい〜よ〜〜。」チャパチャパ。
首を伸ばす。あ、バランスが。バタバタ。
「ほらほらー気持ちいーよー。」チャパチャパ。
水をのぞき込む。オットット。バタバタ。

ーーーーズルっ( ゚д゚)
何度か繰り返したところで、洗面器の縁からズルっと足を滑らせ、水の中に落ちる。
焦るたけちゃん。バタバタして洗面器の縁に這い上がる。ゼイゼイしている。
でも、一度入ってしまって、怖くないことが解ったらしく、指にとめて水に入れてあげると、今度は神妙な面持ちで浸かっている。水の深さは3cm程度なので、溺れることはない。足は洗面器の底にしっかりとついている。やがて、翼を水面に広げて足をワシャワシャ動かして、洗面器の中を移動する。
翼や背中の羽と違い、おなか側の羽はさほど水をはじかないみたいで、びしょ濡れになって色が変わっている。
水から上がってきたたけちゃんを見て、「風邪ひいちゃうんじゃない?」と母が言う。
ヘアドライヤーを持ってきた。たけちゃんの身体から離して、緩めの温風を送ってみる。ヤケドしたら大変だからね。
たけちゃんは気持ち良さげに目を閉じて、翼を少し持ち上げて、風が胴の全体に当たるようにしている。水が蒸発する際に体温が下がり、涼しく感じているようだ。

 

この日以降、水を入れた洗面器を床に置くやいなや、ダーっと走ってくるようになった(高く飛び回れないように翼の羽を切っているので、もっぱら床を走り回る)。

洗面器の縁にチョンと飛び乗ったかと思う間もなく、水に飛び込む。翼を大きく広げてバシャバシャやって、気が済むと洗面器の縁に上がり、床にトンと降りる。弟が差し出した指に乗って、ソファの背もたれの上に移動する。離れたところからドライヤーの温風を当ててもらう。目を閉じて翼を広げる。気が済んだところで、背もたれの上を風が当たらないところまで横移動する。

こうして、水浴びは、たけちゃんの夏のお気に入りになった。